学生の活動 水の国くまもと「未来予想図プログラム」 学生の活動 水の国くまもと「未来予想図プログラム」
サントリーは熊本県内に生産拠点を置く地元企業として、
「ずっと、あなたと、熊本と。」を合言葉に、熊本地震復興支援活動に取り組んでいます。
地震から5年がたった今年、
熊本日日新聞社と共に「水の国くまもと未来予想図プログラム」を実施しました。
水の国くまもと 未来予想図プログラム概要 水の国くまもと 未来予想図プログラム概要
地元の次世代と一緒に「記憶の継承」について理解を深め、
未来に向けて考動します。
流れ 流れ
「水の国くまもと 未来予想図プログラム」は熊本地震からの5年を振り返り、
災害の記憶の継承と防災の知恵の伝承といった課題を抱える地域に対し、
若者らが自ら考え行動する「考動(こうどう)」により、未来に向けた提案に取り組み、地域共創を目指します。
地元の大学生や大学院生10人が参加し、5月29日から6月13日までの期間でワークショップ、
住民・役場職員との交流、調査などを通じて自分たちの提案をまとめました。
その後、各町の役場や県庁でプレゼンテーションしました。
  • プログラム初日、地元の大学生や大学院生10人が参加した開講式が、新型コロナウイルス感染防止のためオンラインで開催されました。オリエンテーションでは総合監修の熊本大学熊本創生推進機構の田中尚人准教授らが、学生に対してこのプログラムで考えるべき3つのミッションを提示。続いて京都大学防災研究所教授の矢守克也氏がアドバイザーとして阪神淡路大震災後の取り組みについて講演。更に、熊本地震復興ボランティア集団「SARCK(さるくっく)」代表の松岡優子氏と、御船町で緑茶の生産・製造・販売を行う「お茶乃のぐち」専務の野口大樹氏が講演。その後、講師や参加学生が相互にテーマについて自由に語り合うディスカッションが行われました。
    講義内容
    オンライン講義では、3名の講師による講演を通して、様々な学びを得られました。矢守克也氏による「災害を語り継ぐこと」の講演では、“災害や記憶の継承だけではなく、発災前の日常も含めて語り継ぐこと”の大切を学びました。また、松岡優子氏による「かたる、とは」の講演では、“人の心に届くのは美辞麗句ではなく人の心情であること”に気づかされました。そして、野口大樹氏の「生業を引き継ぐ」の講演では、「われわれに何ができるか、行動で示していきたい」との言葉に学生たちは真剣なまなざしで聞き入っていました。
    学生の声

    崇城大学工学部 建築学科4年

    岩下 佳澄さん

    私は東日本大震災も少し経験したのですが、家に帰れないほどの経験は熊本地震が初めてでした。コロナ禍の今は感染しないようにすることで頭がいっぱいなので、地震のことを記憶から消さないようにすることが今の課題だと思います。震災から5年たった今年をターニングポイントに、記憶の継承やこれからの日常を皆さんと考えていきたいと思います。

    熊本大学大学院自然科学教育部 社会環境マネジメント4年

    王 光耀さん

    中国遼寧省瀋陽市出身で日本に来て1年半になりました。田中先生の研究室で勉強しています。研究室では、まち歩きやワークショップなどを通じて熊本地震がもたらしたハード面とソフト面の被害を検証して、記憶を継承していくことの大切さを感じました。今回は皆さんとコミュニケーションして、記憶の継承についてさらに検討したいです。

    熊本県立大学総合管理学部 総合管理学科4年

    大塚 里実さん

    熊本地震のときは高校2年生でした。自宅が半壊する被害を受けてしまったので、今回は被災の経験をしっかり伝えていきたいと思います。また大学でマーケティングを専攻しているので、学んだことをプロジェクトに生かせたらうれしいです。

    熊本大学工学部 土木建築学科4年

    小川 連太郎さん

    田中先生の研究室で勉強しています。熊本に来て1年目です。以前いた広島では、豪雨災害や台風で実家が被災する経験をしていて、災害からの復興に関心を持っています。熊本地震は経験していないのですが、学ばせてもらっている熊本にどう貢献できるか、今回の活動を通じて学んでいきたいと思っています。

    熊本県立大学総合管理学部 総合管理学科3年

    坂元 彩華さん

    大学では教育や情報分野の勉強をしています。今回の参加者の皆さんは建築や環境など、私が学んでいることとは異なるさまざまな分野の勉強をしている人たちがいるので、すごい大きな化学反応が起こるのだろうなと、今からワクワクしています。

    熊本大学大学院自然科学教育部 土木建築学専攻2年

    髙良 幸作さん

    崇城大学で建築学を学び、現在は田中先生の研究室にいます。沖縄の出身で、熊本に来たばかりの大学1年生の4月に熊本地震に遭って沖縄に避難したのですが、地震のときに助けてもらった人たちへ恩返しをできればと思っています。自分でも震災の記憶が薄れている実感もあるので、今回のプログラムの意義を感じました。

    熊本大学大学院自然科学教育部 土木建築学専攻1年

    竹原 大旗さん

    福岡県糸島市出身です。田中先生の研究室で勉強しています。被災経験はないのですが、熊本に来て人と話すうちに災害について考えるようになり、地震で被災した南阿蘇鉄道の復旧を支援する団体に入りました。記憶の風化を止める方法について、今回は「自分事」として考えたいと思っています。今はワクワクがとまりません。最高の2週間にしたいと思います。

    熊本県立大学環境共生学部 居住環境学科4年

    西尾 ひよりさん

    岐阜県出身です。熊本地震が起きた当時はテレビのニュースを見て、遠くで起きた災害という程度の意識でしたが、熊本に来て大変なことが起きていたことを実感しました。今回は熊本でのこれまでの中で感じた震災のいろいろなことを振り返り、将来の熊本を考える機会にできたらと思っています。

    熊本県立大学総合管理学部 総合管理学科1年

    村田 和泉さん

    中学2年生のときに熊本地震を経験しました。高校生になって総合的な学習の時間で防災を考えたとき、ハザードマップの災害危険区域には昔の人が災害を後世に伝えるために残してくれたものがあったのに、それらが変えられてしまっていることに疑問を感じました。今回は熊本地震の記憶を後世に残せる提案をできたらと思っています。

    熊本県立大学大学院環境共生学研究科1年

    山田 芽さん

    熊本地震が起きたときは社会人としてECサイト運営会社に勤務していました。震災の直後に、お客さまから熊本の産品を買って応援したいという声が挙がり、多くの商品が集まったという経験があります。今回はそのように応援していただいた方たちのためにも、熊本に何かを残せたらという気持ちがあります。

    総監督・講師の声

    熊本大学 熊本創生推進機構 准教授

    田中 尚人

    「オリエンテーション」

    今回のプログラムのミッション(任務)は、①熊本地震からの5年を振り返り、災害や復興の記録をアーカイブ(長期保存)する②多様な主体と協働し、誰もが「記憶の継承」に取り組める熊本らしい社会を共創する③熊本地震やその復興の過程で得た記憶や経験、教訓を持続可能なかたちで未来に引き継ぐ─の3つです。成果発表をしてもらいますが、心に留めてほしいのは「みんな違って、みんないい」ということ。復興とは何かを考え、地域の人から話を聞いて日常を学んでください。今回の経験が皆さんの思い込みを変える2週間になればと願っています。

    京都大学 防災研究所 教授

    矢守 克也

    「災害を語り継ぐこと」

    1995年の阪神・淡路大震災以来、災害の記憶を引き継ぐ活動を続けてきました。私の工夫を3つだけ話します。1つ目は、被災前は当たり前だった大切なヒト・モノ・コトへの被災者の気付きを他の地域の人たちに伝え、防災の重要性を認識してもらうことです。2つ目は、被災者の心の復興のため、地域住民が共有する被災前の記憶を引き継ぐことです。3つ目は、災害時のジレンマに焦点を当て、正解ではなく「成解(せいかい)」を導く防災教育教材「クロスロード(分かれ道)神戸編」を発表しました。学生の皆さんの未来を見据えた取り組みに期待しています。

    SARCK(さるくっく) 代表

    松岡 優子

    「かたる、とは」

    私は俳優や演出家をしていて、熊本地震復興ボランティア集団を立ち上げました。語るには、よく聞き、よく見、よく感じる力が必要で、伝わるように工夫することが大切です。例えば戦争の悲惨さは、死者や被害者の数だけではうまく伝わりません。井上ひさし原作の「父と暮らせば」という舞台作品は、戦争や原爆の悲惨さをコミカルに描いていて、父と娘の深い愛情が伝わってきます。井上さんは、多くの人からの共感を得、感動を届けるには「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」を大切にされました。

    お茶乃のぐち専務

    野口 大樹

    「生業を引き継ぐ」

    緑茶の生産・製造・販売しています。私は熊本地震を経験して地域とともに生きる覚悟が決まり、災害に備えたリスクマネジメントを大事にするようになりました。ただ現実には、農家の担い手が少ない地域では人に頼るしかない状況もあります。そこで地域の100年先を見据え、農業の可能性を試すために一般社団法人アグリウォーリアーズ熊本を立ち上げました。農業は裾野が幅広い、社会の土台となる産業です。コロナ禍によって今は本質で勝負する時代になったと思っています。われわれに何ができるか、行動で示していきたいと考えています。

  • オンライン講義の翌日、大学生ら10人は3班に分かれ益城町・嘉島町・御船町の課題をそれぞれ考え、情報集活動をスタート。そして地域の人々から得られた情報の意味を共有し、地域の課題を解決するアイデアについて話し合いました。
    「復興とは何か」について考えるワークショップが行われました。学生らは復興について思い浮かんだ個々の問題を付せんに書いて模造紙に貼り付け、数多くの問題をグループ化しました。すると復興の輪郭が少しずつ明確になっていきました。
    A班は益城町、B班は嘉島町、C班は御船町の担当として各町の役場を訪れ、住民などと交流する中で、課題解決のアイデアを模索しました。 6月4日にはオンラインで中間報告会が行われ、各班が課題解決のアイデアを出し合いました。報告を聞いて田中准教授は調査の進め方やアイデアの方向性などについてアドバイス。各班は他班の検討内容や進行状況を確認した上で最終発表に向け、この日は「復興の、その先へ」の期待感を共有しました。
    A班の4人(小川連太郎、王光耀、山田芽、大塚里実)は、震災遺構として保存された益城町の潮井神社や布田川断層を見学。町役場、まちづくり協議会、町教育委員会などを訪問したほか、住民からの聞き取りも重ねました。
    B班の3人(髙良幸作、岩下佳澄、村田和泉)は、嘉島町役場や地域住民宅を訪問。まち歩きの中で、嘉島町には古くから水害に見舞われてきた地区がある一方、豊かな水に恵まれている地域であることを実感。サントリー九州熊本工場から震災時の対応などを聞き取り、発表内容を検討しました。
    C班の3人(西尾ひより、竹原大旗、坂元彩華)は、御船町市街地を訪れ、役場をはじめ飲食店や公園などで町民と交流。中山間地でも聞き取りを重ね、住民間の意識の違いを感じ、みんなが震災の記憶を語り合える方法を検討しました。

    熊本大学 熊本創生推進機構 准教授

    田中 尚人

    発表を聞いて、皆さんが考えたものには一つとして無駄がないという印象を持ちました。全部生かしてください。ただ時間に限りがあるので、発表できるものと、できないものがありますね。それに、それぞれが学んでいる専門分野の知識が邪魔をして、大事なことが見えなくなっているかもしれません。今回はみんなで勉強しているので、他班の良いところはどんどん取り入れて、学び合うことが大事です。皆さんはこれから各町に行って話を聞くと思いますが、そう簡単に相手と共感はできないかもしれません。それでも皆さんが学びたいという気持ちを整理して相手に伝えてください。聞いたことを全てオープンにする必要はありません。自分の心にとどめておくものがあってもいいです。それが皆さんの学びとなればいいのです。学ばせてもらうという気持ちでプログラムに取り組んでもらいたいと思います。

    SARCK(さるくっく) 代表

    松岡 優子

    「かたる、とは」

    地域の未来は明るいな、と思いました。皆さんが前より必ず良くなるという捉え方をしていて、それってすごくいい考え方だと思いました。

  • 6月13日、提案直前発表会が熊日本社をメイン会場に関係者と
    オンライン中継して開催され、各班の「考動」の成果が発表されました。

    A班

    B班

    C班

プログラムの講師による総評プログラムの講師による総評

京都大学 防災研究所 教授

矢守 克也

当事者の「成解」大事に
ステップアップに期待

3班の発表の中には、記憶の継承に効果的なツールが出てきました。A班はポスター、B班は「笑本」を使ったストーリー、C班はアーカイブ(長期保存)。記憶の継承には「正解」を伝えるのではなく、当事者が悩みに直面しひねり出した「成解(せいかい)」を語り合い、何度も語り直すことが大事です。プログラムが終了したからこれで終わりではなく、皆さんが今後、さらにステップアップしていかれることを期待しています。

SARCK(さるくっく) 代表

松岡 優子

創造力と想像力を確信
「何かが始まった」実感

ゼロをイチにすることが一番大変なことですが、皆さんの創造力、そして想像する力を見せていただきました。発表をしている皆さんの先に人が見えるようで、きちんとまちで人に向き合ってきたんだなと思えました。すてきな発表でした。今回のプロジェクトを通して、皆さんの中で何かが始まったのではないでしょうか。今後に期待しています。

熊本大学 熊本創生推進機構 准教授

田中 尚人

語り継ぐ意味を知り
貴重な成長の機会に

初日の講演で大切なことを学びました。矢守先生からは、語り継ぐことは災害や記憶の継承だけでなく、発災前の日常も含めること。松岡さんからは、人の心に届くのは美辞麗句ではなく人の心情だということ。野口さんからは、地域で生きる覚悟から本当の継承とは何かということ。3班の提案はそれぞれみんなでつくった素晴らしいものでした。A班は手を動かし、すてきなポスターを試作してくれました。B班は水に着目し、解決策を構造的に考えてくれました。C班は最後に本プログラム名の“未来予想図”を描いてくれました。今回のプログラムではさまざまな学びを得られ、全員の貴重な成長の機会になったと思います。関係者の皆さんに感謝します。

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A班
B班
C班

主催

熊本日日新聞社
サントリーホールディングス

後援

熊本県
御船町
嘉島町
益城町
南阿蘇村
熊本大学 熊本創生推進機構

お問い合わせ先
水の国くまもと 未来予想図プログラム事務局
熊日営業企画部内
TEL:096-361-3226(平日9:30〜17:30)